清郷伸人, 北原茂実

国民皆保険はGHQが戦後日本の医療を先進国に近づけるために導入した発展途上国型の実験的システムで、人口構成がピラミッド型で、経済成長し、病人が少ないことが前提条件である。だから終戦時すでに先進国だった欧米諸国はこのモデルは眼中になかった。経済成長も鈍り、少子高齢化が最先端で進む今の日本には、国民皆保険は害をなすシステムである上に保険ともいえなくなっている。 国民皆保険は裕福な人が得をするシステムである。診療報酬が単価で決められているから、どんなに裕福でも一定額を払えば医療を受けられる。一方、本当に貧しく、保険料を払えない人は保険資格を取り消される。東大阪市のある病院では患者の26%が国民健康保険料を払えず、資格を取り上げられていた。こうした人たちが医療を受けようとすると自費で払わなければいけない。本当に貧しい人たちは、今、保険から追い出されている。セーフティネットに全然なっていない。 国民皆保険では所得によって保険料に差がつけられているものの医療費はまったく平等である。裕福な人がどんなに高額な医療を受けても自己負担は一定額の3割で済む。貧しい人は世界的にも高率な3割自己負担に耐え切れず高額な医療は受けられない。こうして高度で高額な医療は裕福な人たちが存分に享受し、苦しい保険財政はさらに悪化する。貧しい人たちは保険料を払っていても低額な医療しか選べず、払えない人はそれさえ全額自己負担になる。 「お金をかければ自分たちが困った時に何とかしてもらえる」のが保険だが、若い人はあまり病気にならないから、保険料は高齢者の医療に使われてしまう。自分たちが病気になる頃には財源がなくなる。つまり自分が使えないのに保険料を払っており、基本的に保険としてのメカニズムが壊れている。 これは日本の年金システムにもいえる負担の賦課方式というもので、現役世代が高齢世代の給付の負担をするという考え方である。人口のピラミッド型構成では何の問題もなかった、むしろ最適だったものである。しかし大きく変わった現実をリアルに考えれば、このシステムの崩壊は不可避である。 医療は基本的に税で見るべきだ。健康保険も形式的には目的税だから、医療財源に保険料と税がある今の二重構造をやめて、税に一本化すべきなのだ。保険でもなくセーフティネットにもなっていない国民皆保険はやめて税金で保障するのが、真のセーフティネットだと思う。 民間の営利を目的とした保険と異なって、病者や弱者も排除しない相互扶助の思想のもと全国民で支えあう方式でスタートした国民皆保険だが、所得格差や世代格差という現実の前で、国民平等の負担と受益という理想が幻になろうとしている。この変えられない現実を直視し、国民皆保険から落ちこぼれる貧者や世代を掬い上げることを真剣に考えなければならない。米国の悪口をいって済ましている場合ではないのである。